多年の宿願であった東書芸の東京展を、8月20日から25日まで小田急百貨庖で開催することができた。書友や知人や嘗ての門人達が次々に訪れてくれ、懐旧談に花を咲かせた。滞在中の日々は老人の体にかなりの疲れを覚えた筈だったのに、さしたる事もなかったのは喜びという精神が勝っていたのであろう。
25日夜帰宅すると、財団法人晴嵐館の認可書が下附されていた。会館の建築も順調に進み、屋根瓦も葺き終わっていた。この喜びの二重奏は新たなる感激そのものと言えよう。
26日早朝に起き出でて戸を繰ると、庭樹の緑に応えるように、会館の織部焼の甍が聳え立つ。この会館は多くの人達の浄財によって出来上がりつつある。私は実に果報者であると思ったら、とたんに良寛詩の一句である「鉢は香る千家の飯」が脳裏をかすめた。
(『書芸中道』昭和46年10月号、『巻頭言集』P142) |